「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」 1999年/イギリス/2時間8分
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 007シリーズでは、今作の「ワールド・イズ・ノット・イナフ」で、19作品目を数えることになります。そして、20世紀最後の作品ということもあり、全米でも反響を呼びました。全米では、1999年11月19日に公開され、週末3日間の興行収入で、3550万ドルを達成。これは、タイタニックの2700万ドルを凌ぐ記録なのです。今作は、石油パイプラインを巡り、凶悪テロリストとの死闘を繰り広げる内容になっています。そして、ジェームズ・ボンドは、スペイン、英国、アゼルバイジャン共和国、カザフスタン、トルコと、世界を駆け巡り、凶悪テロリストを追いかけます。

 ジェームズ・ボンド役には、「ゴールデンアイ」「トゥモロー・ネバー・ダイ」に引続き、ピアース・ブロスナンが演じます。彼は、ショーン・コネリーから数えて、5代目になります。3作品目ともなりますと、ジェームズ・ボンドの顔としても定着し、落ち着いて、鑑賞できます。実をいいますと、007シリーズを初めて鑑賞したのは、「ゴールデンアイ」なので、ピアース・ブロスナン以外のボンド役を観たことはありません。私にとっては、ジェームズ・ボンド=ピアース・ブロスナンなのです。1着5000ドルもする、イタリア製高級スーツ《ブリオーニ》も、1足272ドルもする英国のトップブランド《チャーチ》の革靴も、彼だからこそ、着こなせることを、信じてやまないのです。

 007シリーズといえば、このシリーズには欠かせないヒロイン、ボンド・ガール。今作のボンド・ガールは、2人登場します。その内、もう1人は、後半から舞台に登場します。ボンド・ガールを演じる一人には、フランスの国際派女優、ソフィー・マルソー。彼女の名前は、これまで、聞いたことがある程度でした。そして、もう1人のボンド・ガールは、デニース・リチャーズ。あの「スターシップ・トゥルーパーズ」のヒロイン役を演じていた彼女です。どちらもボンド・ガールには相応しい美人女優なのですが、それを、ジェームズ・ボンドは…。

 もう一つ、ジェームズ・ボンドの敵役にも注目しておきましょう。今作では、「フル・モンティ」で、英国アカデミー主演男優賞を獲得した、ロバート・カーライルが、その役を務めています。彼は、脳に埋まった銃弾によって、全感覚が麻痺しているという役柄を演じています。ただ、私見ながら、それは作品の中では、あまり伏線的な意味合いを持っていないように感じられました。その感覚麻痺という設定に拠って、007との戦いを、有利に進めているとも思えませんでしたし、何より、007は、そのことによって、逼迫するようなこともありませんでした。ストーリーに花を添える程度のものとして、割りきった方がいいでしょう。また、ロバート・カーライルは、英国映画界での貢献を認められ、大英帝国勲章〈OBE〉を授与されたときに、面白いエピソードを残しています。彼は、その授与式に出席したときに、エリザベス女王に、「今は、どんなお仕事をしているの?」と訪ねられ、彼は、こう答えました。「今の私の仕事は、ジェームズ・ボンドの抹殺です」

 007シリーズといえば、ボンド・ガール、そして、敵。この他にも忘れてはならないのが、英国諜報部MI−6の最高責任者「M」、ジェームズ・ボンドに数々の秘密兵器を提供する「Q」、そして「M」の秘書、マネーペニーの3人です。「M」は、「恋におちたシェイクスピア」にて、アカデミー助演女優賞を獲得したことで記憶に新しい、ジュディ・デンチ。マネーペニー役のサマンサ・ボンドは、ピアース・ブロスナンと同じく、007シリーズでは、3度目の出演。ここで、何よりも、お伝えしなければならないのは、「Q」役を演じた、デズモンド・リューウェリン。彼は、全19作品中、17作品に出演する、007シリーズのもう一人の顔であり、シリーズに欠かせないレギュラーでした。しかし、本作完成後の1999年12月19日、交通事故で急逝してしまいました。作中においても、「Q」は、今作で、007シリーズから引退することを感じさせるような仕上がりになっていました。彼は、事故にあう直前から、今作が最後になることを予感していたのかもしれません。「Q」は、ジェームズ・ボンドに、彼の助手を紹介しています。ジェームズ・ボンドは、「Qの次だけに、今度はRか?」と、ジョークを飛ばしているシーンがそうです。また、「Q」は、ジェームズ・ボンドには、いつも2つのことを教えていたとして、それを語ります。一つは、どんな境遇の中においても、敵には絶対、負けだと悟られてはいけないこと。そして、もう一つは、いついかなる時でも、必ず逃げ道を作っておくこと。彼は、そう言い残した瞬間、自分の座っている椅子は、エレベーターのように降下し、舞台から退場していくのです。なんとも印象的なシーンでした。

 007シリーズは、プロローグから、いかにも007シリーズらしいアクションによって、場内を沸かせてくれます。ピアース・ブロスナン演じる3作品は、何れも監督は異なり、007シリーズのマンネリ化に刺激を与えてくれます。今作におけるスパイスは、ボンド・ガールにあるということを、監督は、伝えたかったのではないでしょうか? また、ジェームズ・ボンドといえば、BMWを乗り回すシーンを、直ぐに思い浮かべますが、今作に、カーチェイスはありません。ただし、ボートチェイス、スキーアクションに、ボンドは挑戦していますので、それも、新しい刺激になるのではないでしょうか?

監督
 マイケル・アプテッド

キャスト
 ピアース・ブロスナン    ジェームズ・ボンド
 ソフィー・マルソー     エレクトラ・キング
 ロバート・カーライル    レナード
 デニース・リチャーズ    クリスマス・ジョーンズ
 ジュディ・デンチ      M
 ロビー・コルトレーン    ヴァレンティン・ズコフスキー
 ゴールディー        ブル
 デスモンド・リューウェリン Q

参考
 ・株式会社インプレス MOVIE Watch
 ・「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」公式サイト
 ・「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」パンフレット