「交渉人」 1998年/アメリカ/2時間19分
自己評価ランキング B−

《ストーリー》
 シカゴ警察でbPの実力を誇る「人質交渉人」のダニー・ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)は、今日も、実の娘を人質に籠城していた男の交渉に当たり、事件を無事に解決させた。その夜、部署仲間たちとのパーティでも、TVニュースに流れる彼の活躍ぶりにみんなの歓声が沸いた。その中には、新婚の妻カレン(レジーナ・テイラー)の笑顔もあった。そんな賑わいの中で、ローマンは、相棒のネイサンから意外な情報を知らされる。200万ドル近い警察の年金基金が何者かに盗まれ、内務捜査局の人間もそれに関わっているらしいというのだ。この話をネイサンはある内偵者から聞き込んだというのだが、年金委員のローマンにもそれは寝耳に水だった。その夜、家に戻ったローマンは、ポケベルで再びネイサンから呼び出される。しかし約束の場所で彼が目にしたのは、ネイサンの射殺死体だった。

 相棒を失ったショックの中で、ローマンは、ネイサンが年金横領事件の情報を集めていたことをみんなに打ち明けるが、警察の疑いの目はローマンに集中した。状況証拠が彼に不利なものばかりか、家宅捜査でローマンの部屋から海外口座の預金書が発見され、彼の容疑は決定的なものとなった。その口座の金額は、盗まれていた額と一致していたのだ。誰かが自分を罠にはめた。しかし、一体、何のために!? トップを誇る交渉人の立場から一転して、殺人と横領の容疑者となってしまったローマン。このままでは自分は破滅するだけである。カレンとの幸せを奪われ、生きる権利を剥奪された彼にとってやるべきことは、真犯人を突き止めることしかない。ローマンは、あの夜、ネイサンが「ニーバウム内務局長の名も上がっている」と言っていたことを聞き逃さなかった。彼は、連邦政府ビルの20階にある内務捜査局に赴くと、ニーバウム(J・T・ウォルシュ)に事実を告白するように迫った。しかし、彼は何も知らないと言い張る。イチかバチか、ローマンは彼に銃を突きつけ、その場に居合わせたタレ込み屋のルーディ(ポール・ジャマッティ)、秘書のマギー(シボーン・ファーロン)、フロスト本部長補佐(ロン・リフキン)をも人質にして立て籠もる。

 事件はあっという間にニュースとなり、ビルは警察の車や警備隊、リポーターたちで包囲された。トラビス署長(ジョン・スペンサー)、SWAT司令官のベック(デイビッド・モース)らは、早速、いつも通り行動を開始するが、相手はその道のプロ、警察の動きなどは先刻承知である。ローマンは、部屋とエレベーターの換気路の全てをガムテープで塞ぎ、窓にはブラインドを下ろし、換気孔から覗くマイクロカメラのケーブルもひっこ抜いてしまった。これでは、警察は全く身動きがとれない。署長が彼に電話をすると、彼の答えはたった一言「クリス・セイビアン(ケビン・スペイシー)以外とは話はしない」。セイビアン、それは西地区bPの交渉人として、その名を知られる男だった。ローマンにとって、今や仲間は誰も信用できない。だから交渉相手も他人の方がいいと判断したのであった。早速、セイビアンが呼ばれた。互いにその仕事ぶりは認めていても、話をするのは初めての二人だった。こうしてトップの交渉人同士の頭脳と知力をつくした駆け引きが始まった。最初は人質の救出のみを念頭に行動するセイビアンであったが、刻々と変わってくる状況の中で、次第にローマンの必死の叫びに無関心ではいられなくなる。果たして、ローマンが求める解決の道はあるのか、そしてセイビアンはローマンの理解者となりうるのか。先の読めない事件は、想像を超えた結末に向けて急加速していくのだった!

《ストーリー》は、「交渉人」の公式サイトから、無断転載しております。

 交渉人(ネゴシエーター)とは、人質をとって立てこもる凶悪犯を、言葉巧みに説得して、事件を解決させていく、とても危険なプロフェッショナルのことである。彼らは、人質の無事救出を、最大の目的とし、その為には、犯人のありとあらゆる情報を手に入れ、それらのデータを基に、交渉人は状況に応じて、犯人の興奮を抑え、次第に自分のペースへと引き込んでいく。ちょっとしたミスも、それは命取りになってしまう為、誰にでも勤まる仕事ではない。交渉では、気の弱いところを見せたり、動揺しているところを悟られてはならない。また、相手の要求に対しては、「ノー」という言葉を使って、犯人の感情を逆撫でしてもいけない。ときには、ウソやハッタリをかまし、相手を騙すことも必要になってくる。とても、知的な駆け引きを必要とする職業なのである。

 もちろん、この映画では、ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)と、セイビアン(ケビン・スペイシー)の駆け引きが、一番の見ものである。立場は異なれど、交渉人対交渉人の頭脳勝負。この映画ように、無実な人間が真犯人を探す為に、警察の目から掻い潜って真相を解明しようとするシチュエーションは、「逃亡者」や「追跡者」に通ずるものを感じる。それなのに、とても新鮮味を感じたのは、言葉という武器によって繰り広げられる戦いによる興奮を、今までに鑑賞してこなかったことにあるのだと思う。

 パンフレットを読み返して、驚いたのは、もともと、ローマン役は、シルベスター・スタローンに決まっていたということである。そして、セイビアン役にケビン。ところが、理由は記されていなかったが、スタローンはこの映画から降りてしまった為に、ケビンにそのローマン役が回ってきた。しかし、ケビンはそれを断った。自分には、ローマン役よりも、セイビアン役の方が相応しいというのだ。確かに、それも納得できる。結局ローマン役は、サミュエルに落ち着くこととなった。結果的には、スタローンよりも、サミュエルこそ、ローマン役にぴったしだと感じたのは、私だけではないと思う。

 濡れ衣を着せられ、真犯人を突き止める交渉人ローマン役を演じる、サミュエル・L・ジャクソンは、近年、「ダイ・ハード3」「ロング・キス・グッドナイト」、そして、「スターウォーズ/エピソード1」にも出演するなど、今では、超有名な俳優の一人である。多分、今後においても、彼の出演作には、高い評判を得られることが約束されていることだろう。

 そして、もう一人の交渉人であるセイビアン役を演じるケビン・スペイシーは、あの「セブン」の犯人役といえば、思い出す人もいるだろう。なんというギャップの感じる演技力。次回出演作「Hurlyburly」では、「シン・レッド・ライン」のショーン・ペン、「シティ・オブ・エンジェル」「ユー・ガット・メール」のメグ・ライアンと共演している。

 この他のキャストでは、名バイプレーヤーのデイビット・モースも出演。もう、彼は顔を見ただけで分かってしまう。これまでにも、「逃亡者」「12モンキーズ」「ロング・キス・グッドナイト」「ザ・ロック」「コンタクト」でも、お目に懸けているので、彼への愛着心も沸いてきた。ここまで下積みを積んできたのなら、そろそろ、主役を演じてもいいころだと思う。また、ニーバウム役を演じていたJ・T・ウォルシュは、この作品が遺作となってしまった。彼も名脇役として活躍していただけに、とても残念な気持ちである。

監督
 F・ゲーリー・グレイ

キャスト
 サミュエル・L・ジャクソン ダニー・ローマン役
 ケビン・スペイシー     クリス・セイビアン役
 デイビッド・モース     アダム・ベック役
 ロン・リフキン       グラント・フロスト役
 ジョン・スペンサー     アル・トラビス署長役
 J・T・ウォルシュ     テレンス・ニーバウム役
 シボーン・ファーロン    マギー役
 ポール・ジャマッティ    ルーディ役
 リジーナ・テイラー     カレン・ローマン役
 ブルース・ビーティ     マーカス役
 マイケル・カドリッツ    パラーモ役
 カルロス・ゴメス      イーグル役
 ティム・ケラハー      アージェント役
 ディーン・ノリス      スコット役
 ネスター・セラーノ     ヘルマン役
 ダグ・スピヌッザ      トンレイ役
 レオナルド・トーマス    アレン役
 スティーブン・リー     ファーリー役
 ポール・ギルフォイル    ネイサン・ロウニック役

参考
 ・株式会社インプレス MOVIE Watch
 ・「交渉人」公式サイト
 ・「交渉人」パンフレット