「ソルジャー」 1998年/アメリカ/1時間38分
自己評価ランキング B+

《ストーリー》
 とある病院の一室で、生まれたばかりの赤ちゃんを選別する大人たちの姿があった。彼らに選ばれた子供たちは、家族、一般社会から隔離され、「ソルジャー」という人間兵器に育てあげられる過酷な運命を与えられた。幼少の頃から、誓いの十ヶ条を暗記、復唱させられ、血に飢えた猛獣の決闘を凝視させられる毎日…。目を背けることを許されず、上官が語りかけない限り、自ら話すことも許されない。5歳になると、軍人教練が開始される。長距離走の脱落者など、ソルジャーとして不適格な人材と判断された者は、容赦なく抹殺されていった。もうこの頃になると、人間的感情などもはやない。この徹底された精神的、肉体的訓練を、17年間に渡って続けられ、それに耐え得ることのできたほんの一握りの強者だけが、殺戮精鋭部隊「ソルジャー」になることを許された。

 訓練過程を終了し、晴れてソルジャーとなった者は、頬にソルジャーのシリアルbニ名前を刺青され、誓いの十ヶ条を唱和し、戦場へと送り込まれる。その誓いの十ヶ条とは、絶対服従・絶対忠心・絶対勝利・武器至高・外敵殲滅・追撃抹殺・温情無用・弱肉消滅・軍隊全一・戦闘愉悦であった。

 ソルジャーの一人、トッド(カート・ラッセル)は、数々の戦争に参戦し、輝かしい戦果をあげてきたベテランのソルジャーだった。しかし、無敵を誇る人間兵器も、いつか廃棄処分される運命にあった。彼らの前には、遺伝子操作によって生み出された、新世代のソルジャーが現れたのだ。軍の上層部は、新ソルジャーの性能を試すため、トッドを含む旧ソルジャー3人と、新ソルジャーの1人、ケイン603(ジェイソン・スコット・リー)を対戦させる。ケイン603のパワーは旧ソルジャーとは比べ物にならなかった。何とかこれまでの歴戦を乗り越えてきた旧ソルジャーとしての意地を見せるトッドであったが、無残にも戦いの舞台から叩き落とされる。このとき、旧ソルジャーは3人とも死亡したと見なされた。彼らの死は訓練中の事故として処理され、死体は廃棄物運搬船に乗せられ、廃棄物投棄星「アルカディア234」に捨てられることとなった。

 しかし、トッドだけは、まだかろうじて一命を取り留めていた。彼の目覚めた場所、アルカディア234は、地球が排出した20世紀の粗大ゴミの集積場だった。辺りを見渡すと、そこには用済みとなった原子力空母や、旧式のジャンボ旅客機など、巨大な廃棄物の山が至る所に積み上げられ、時には風速160キロの突風が吹き抜ける、不毛の地であった。こんな絶望的ともいえるこの星で、トッドが見たものとは…。

 先日、「ヴァイラス」を見たときに、別の劇場で「ソルジャー」という作品が上映されていることを知り、だたタイトルに惹かれ、内容もまったく知らない状態で、映画鑑賞した。唯一の予備知識は、「カート・ラッセル主演」ということだけ。それが、思った以上に自己評価は高く、結構、面白い作品であった。主演のカート・ラッセルは、感情をもたない人間を演じていることから、ほとんどセリフもない。だが、それだけに演技はより光っていた。そういえば、映画鑑賞を趣味の一つと数えるようになった、その記念すべき最初の作品が、「スターゲイト」であった。このときに、カート・ラッセルという俳優を知り、それから実に80作品振りに、スクリーンで彼を見かけたので、随分と久し振りだった。

 上映開始してから、トッド(カート・ラッセル)の成長期が映し出される。ソルジャーになるまでの過程である。この間に登場する、11歳のトッドを演じているのは、カート・ラッセルの実の息子、ワイアット君だとか。よく顔を見ていなかったので、後から知ったときには、少しショックを受けた。似ていたのかどうかも、今となっては、もう思い出せない。

 この映画に登場するソルジャーというのは、機械的なサポートもない、れっきとした人間である。…にも関わらず、ほとんど発言することもなく、上官の命令通りに行動する。幼い頃からの精神的訓練により、喜怒哀楽といった感情はなく、常に冷静である代わりに、一般市民を盾にした兵士でも、躊躇うことなく銃を連射する冷酷な面をもつ。それはほとんど、ロボットそのものである。まだ、ターミネーターやロボコップの方が、人間味を感じる。この点において、今まであるようでなかった新鮮味を感じ、題材的にも評価はアップした。なによりも、常に冷徹なはずのトッドが、彼を助けてくれた人達の温かい心によって、少しずつ本来の人間らしさを取り戻していく様は、とても良かった。また、せっかく、一般の人たちと共に暮らせるようになったかと思いきや、やはり、周囲から恐怖や不安などの声があがり、彼らの居住区から追放され、土管の中で初めてトッドが見せる涙のシーンは、本当にかわいそうであった。でも、もう少し、人間味を深めていく作品に仕上がっていれば、Aランク入りは間違いなかったことだろう。結局、彼は最後まで、笑顔をスクリーンに残すことはなかった。そこが良かったとも言えるし、そこが見たかったという思いもあり、見終わった後は、とても複雑な心境であった。

 主役のカート・ラッセルは、冒頭でも述べたように、「スターゲイト」にも出演している。この他、「デッドフォール」「バックドラフト」「エクゼクティブ・デシジョン」などにも出演、そのキャリアは40年という、ベテランの役者である。彼は、この作品のために、クランクインしてから、毎日3時間はトレーニングをこなしていたとか…。

 トッドの敵役となる、ケイン607を演じるのは、ジェイソン・スコット・リー。私は、この作品で初めて彼を知ったので、過去の作品については語ることは出来ないが、パンフレットによると、彼もまたカート・ラッセルのように、役づくりの為、武術の特訓や、魚・タロイモ・バナナを主食とした食事療法で、7キログラムの筋肉を増強したらしい。

 この映画のヒロインとなる、サンドラ役には、300名のオーディションの中から選ばれた、コニー・ニールセンが演じている。彼女は、英語・仏語・独語・伊語・丁(デンマーク)語・瑞(スウェーデン)語と、6ヶ国語を操るマルチリンガルだとか。過去の出演作には、「ディアボロス 悪魔の扉」がある。

 監督は、「イベント・ホライゾン」のポール・アンダーソン。あの作品は、抽象的過ぎて、期待していたSF作品の割りには、全然、面白くなかったが、主演にローレンス・フィッシュバーンを起用した点では、高く評価している。なにを隠そう、1997年度イカデミー賞で、ローレンス・フィッシュバーンは、最優秀主演男優賞に選ばれている。

 最後にこの作品は、客観的にはB級映画と評価されるかもしれない。でも個人的には、カート・ラッセルの演技と、その人間らしさを取り戻していく過程を、高く評価したい。映画館でなくとも、せめてビデオをレンタルして、鑑賞してみてほしい。

監督
 ポール・アンダーソン

キャスト
 カート・ラッセル      トッド役
 ジェイソン・スコット・リー ケイン607役
 コニー・ニールセン     サンドラ役
 マイケル・チクリス     ジミー・ピッグ役
 ゲイリー・ビジー      チャーチ大尉役
 ショーン・パートウィー   メイス役
 ジェイソン・アイザックス  メイカム大佐役

参考
 ・株式会社インプレス MOVIE Watch
 ・「ソルジャー」公式サイト
 ・「ソルジャー」パンフレット