「エバー・アフター」 1998年/アメリカ/1時間58分
自己評価ランキング A

《ストーリー》
 ある日、貴婦人(ジャンヌ・モロー)は、邸宅に、グリム兄弟を招待した。そして彼女は、彼らの収集した童話の中の一つである、「シンデレラ(灰かぶり娘)」を、空想物語ではなく、真実の物語であることを、打ち明ける…。

 昔々、ダニエル(ドリュー・バリモア)という少女は、とある田舎の屋敷で暮らしていた。彼女はお転婆だったが、大変明るく、魅力的で、とても読書好きな娘だった。ある日、彼女の父、オーギュストは、ロドミラ・ド・ゲント男爵夫人(アンジェリカ・ヒューストン)と再婚し、二人の娘マルガリート(ミーガン・ドッズ)とジャクリーヌ(メラニー・リンスキー)も、ダニエルの住む屋敷にやってくる。しかし、再婚してまもなく、ダニエルの大好きだった父は急死してしまう。

 それから10年後、ダニエルは、ロドミラに扱き使われるメイドになっていた。彼女の義母・義姉妹は、贅沢の限りをつくしていたが、家計は危うい状態であった。彼女はある日、畑にでていたところ、生前、父の使っていた馬を、若者が盗もうとした為、その若者の顔に、思いっきりリンゴをぶつけて落馬させた。ところが、その若者はフランスの王子ヘンリー(ダグレイ・スコット)だった。彼は、国王による、スペインの王女との政略結婚に猛反対して、城をこっそりと抜け出してきたのでった。本来ならば、死罪となるところを、王子はダニエルに興味をもった為、あえて口止め料を渡してこの場を去った。

 それから王子は途中、山賊に襲われていた、宮廷画家レオナルド・ダヴィンチを助けている間に、王の捜索隊に見つかり、ともに城に戻る。その後、国王と何度となく、政略結婚のことで反発しあったが、5日後の仮面舞踏会までに花嫁を発表することで、事態は収まる。それを知ったロドミラは、実の娘であるマルガリートを玉の輿に乗せようと、亡くなった夫の財産を売り払うなど、手段を選ばなかった。それは、母からもらった、ダニエルの婚礼衣装やガラスの靴まで手をつけようとする悪行にまで達した。

 一方の王子は、その後もダニエルと再会し、彼女との会話の中で、その考え方や向学心に感化され、その思いはお互いに恋へと変わっていった。しかし、ロドミラも、そんなダニエルの変化に少しずつ感づき、舞踏会当日は、彼女を地下室に監禁してしまう。果たして、彼女は、仮面舞踏会で王子と再会することは出来るのか? そして…。

 この物語は、シンデレラをベースにした作品であることは、言うまでもない。ただ、 魔法や妖精の登場するようなおとぎ話ではない。実に現実的で、本当にそうだったかもしれない、と思わせる作品に仕立て上げられている。ガラスの靴も、シンデレラでは重要な役割を果たしているので、この映画においても、やはり登場してくる。しかし、かぼちゃの馬車は、少し非現実的であるためか、ここでは一切登場しない。その代わり、魔法使いの代わりに、レオナルド・ダヴィンチが映画の中で活躍し、トマス・モーアの「ユートピア」という本も、ここでは重要な役割を果たしている。

 あまり、この辺の時代設定は、問い詰めない方がよい。何故ならば、矛盾していることが、はっきりとしているからである。レオナルド・ダヴィンチの生没年は、1452−1519であり、ユートピアは1515−1516年に発表されている。一見、1516〜1519年あたりの物語として、納得もできる。しかし、父のプレゼントでユートピアをもらったのは、幼少のころ。…とすれば、少なくとも、そのときが1516年以降ということになる。それから10年後、王子と出会うわけであるから、レオナルド・ダヴィンチは、もうこの世にいないことになってしまう。でも、それが分かっているのに、この作品には、大変、好感を抱いた。

 その理由の一つに、主人公が逞しい。いままでのおとぎ話では、王子様をはじめ、周りから助けられて、ようやくハッピーエンドを迎えていたのに、この映画では、自ら進んで、苦難を乗り越えていこうとする。ただ、力強いだけではなく、知性も兼ね備えていて、本当に魅力的である。私自身、向学心ある女性にめっぽう弱く、この映画のヒロインにすごく憧れを抱いたくらいだ。

 そして、何より、映画そのものも、ヒロインも美しい。特に、暖炉のそばで、ユートピアの本を手にしたまま眠りから覚めようとするヒロインのシーンは、1枚の絵画に匹敵する感銘を受けた。当分、ドリュー・バリモアの出演作には、目が離せそうにもない。おそらく、6月に公開予定の「25年目のキス」も、鑑賞することになるだろう。

 かなり、べた褒めしているとはいえ、実は、他人にはあまりこの映画を薦めてはいない(特に男性には)。何故ならば、ストーリーの展開が読めるからである。必ずしも、映画だからといって、どんでん返しを必要とするわけではない。しかし、私達が幼い頃から、慣れ親しんだ「シンデレラ」である。もう少し、一工夫を付け加えることは出来なかったのであろうか? ラブ・ストーリーとしては、展開も単調である。偶然的な出会い→恋への発展→恋愛に対する障害→障害を乗り越えてハッピーエンド。最近のドラマにしてもそうだが、型にはまっている。ある日、同僚にこの映画のことを話したら、「俺の苦手なタイプだ」と、あっさり返された。とても気に入っている作品であるが、そのことに対して否定できない。

 最近は、本屋で、グリム童話に関する本を、多数見かけるようになった。中には、ベストセラー入りするものも登場した。私もブームになる前に、「初版 グリム童話集」全4巻を購入した。今回、映画を観た後に、「灰かぶり」をもう一度、読みなおしてみると、現代版のシンデレラともいえる、「エバー・アフター」とは、随分と、物語の内容も異なり、その相違点を比較してみるのも面白い。今、私達の読んでいるグリム童話は、1812年に発表された初版から、何度も修正や加筆されたものであり、初版の「シンデレラ」には、かぼちゃの馬車は登場せず、靴もガラス製のものではなく、金で作られたものであった。なかでも凄いのは、舞踏会で残してきたシンデレラの片方の靴を、意地悪な2人の姉が履くシーンである。継母は、無理やりにでも靴を履かせようと、彼女らのかかとやつま先を、ちょん切るように忠告し、2人の姉はそれをやってのけるという、残酷な描写になっているのだ。このように、シンデレラは、古今東西、500以上のバリエーションがあると言われている。「エバー・アフター」は、その中の一つとして、仲間入りしたといってもいいだろう。

 主演のドリュー・バリモアは、6歳のころに、あの有名な「E.T.」に出演している。その後、一時、麻薬とアルコール中毒だったことが発覚しているが、今は立ち直っている。パンフレットによると、彼女は、チャリティ運動にも積極的で、NGOの女性健康基金のスポークス・パーソンを務め、このほかにも、野生生物ウェイステーション(WW)のボランティア活動や資金集めに協力し、動物にサンクチュアリを提供する活動をしている。イタリアでのプレミア上映に出席した際には、「エバー・アフター」について、「魔法の力は誰かに頼むものじゃなくて、ふたりの愛にあるの」と語っている。確かに、愛には、魔法に匹敵するだけの力があるのかもしれない。先日、4月19日に来日した。

 そして、意地悪な継母役を演じたのは、「アダムス・ファミリー」で有名な、アンジェリカ・ヒューストン。映画の中では、ドリューの演じるダニエル役とは、水と油のような関係であったが、実際には、親子のように仲がよいらしい。いつも彼女をみて思うのは、岩下志麻と、どことなくそっくりな雰囲気をもっていることである。

 ヘンリー王子役には、ダグレイ・スコット。「ディープ・インパクト」では、チョイ役でTVカメラマンを演じている。どうやら噂によると、次回作は「ミッション・インポッシブル2」に出演するらしく、トム・クルーズと共演することになりそうだ。

 最後に、「エバー・アフター」は、日本語訳にすると、「その後、ずっと…」という副詞を意味する。シンデレラ・ストーリーでは、この言葉の意味が、誰にでも想像できるだろう。それだけに、この作品だからこそ、相応しいタイトルなのかもしれない。

監督
 アンディ・テナント 

キャスト
 ドリュー・バリモア     ダニエル役
 アンジェリカ・ヒューストン ロドミラ役
 ダグレイ・スコット     ヘンリー王子役
 パトリック・ゴッドフリー  レオナルド・ダヴィンチ役
 ミーガン・ドッズ      マルガリート役
 メラニー・リンスキー    ジャクリーヌ役
 ティモシー・ウェスト    フランシス王役
 ジュディ・パーフィット   マリー王妃役
 ジェローン・クラッベ    オーギュスト役
 リー・イングルビー     グスターブ役
 ケイト・ランズバリー    ポーレット役
 マテロック・ギブス     ルイーズ役
 ウォルター・スパロー    モーリス役
 ジャンヌ・モロー      老貴婦人役
 アンナ・マグワイア     ダニエルの少女時代役
 リチャード・オブライアン  ピエール・ル・ピュ役

参考
 ・株式会社インプレス MOVIE Watch
 ・「エバー・アフター」公式サイト
 ・「エバー・アフター」パンフレット