「エネミー・オブ・アメリカ」 1998年/アメリカ/2時間12分
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《ストーリー》
 ある日、NSA(国家安全保障局)の行政官の一人、レイノルズは、「通信システムの保安とプライバシー法案」に反対するハマースリー下院議員を説得していた。しかし、ハマースリー下院議員は、この法案を断固として拒否した。何故ならば、この法案は、一見すると、テロを防止する為には必要不可欠であるように見えるが、成立すれば、国家はプライバシーの侵害を自由に行使できるからであった。レイノルズは、説得に応じない彼を暗殺し、それを事故に見せかけるようにカモフラージュした。

 しかし、巧妙にカモフラージュした筈の暗殺現場も、自然写真家ザビッツの設置したビデオには、ばっちりと写し撮られていた。このビデオの存在を知ったレイノルズは、優秀な部下を使って、彼からビデオテープを奪い取ろうとする。彼らに目をつけられたことを知ったザビッツは、逃げる最中、偶然にも大学時代の同級生で、今は弁護士を勤めるディーンと遭遇。コピーしたテープをこっそりと彼の買い物袋に入れ、なおもNSAの追跡から逃れようとするが、その途中、事故に遭い、即死する。

 そして、この瞬間、ディーンはNSAを敵にまわすとこになった。NSAは最先端の情報収集テクノロジーや、優秀なスタッフを使い、彼を抹殺しようと、彼のプライバシーを次々と操作し、妻の信頼や、仕事も次々と失っていく…。果たして、最大のスパイ組織から逃げ切り、レイノルズの野望を打ち砕くことは出来るのか? そして、元通り、安泰した生活を取り戻すことは出来るのか?

 個々のプライバシーの情報は、最新テクノロジーを駆使することで、いとも簡単に入手・操作できるという事実を、この映画では教えてくれる。パンフレットのイントロダクションにもあるように、「ほんの数年前なら、これはSF映画と呼ばれていたはずだ。ハリウッドの偉大な想像力が生んだ、架空の物語なのだと。だが、恐るべき事にここに描かれたシステムやテクロノジーはすべて実在し、次の主人公となるのは〈私たちの中の誰か〉なのである...。」という一文は、現実味を帯びている。

 ふとした偶然で、暗殺事件の実録ディスクを手にした弁護士(ウィル・スミス)は、首謀者であるNSA(国家安全保障局)の行政官(ジョン・ボイド)に狙われ、NSAの最新テクノロジーを駆使して、彼のプライバシーを丸裸にしていく過程は、恐怖の一言につきる。派手なアクションはないものの、十分に私達にスリル感を与えてくれる作品である。

 最近では、セキュリティーという言葉も、定着してきた。特にコンピュータ業界においては、インターネットをはじめ、このセキュリティーは、大変重要な役割となった。セキュリティーが破られれば、いとも簡単にコンピュータへ侵入し、どんな情報も入手・操作できるからである。特に、ハッカーの存在により、国家規模でなくとも、プライバシー情報を入手できる存在は、身近にある。

 クレジットカードも、コンピュータさえ操作すれば、映画のように、使えなくすることも出来れば、逆に他人が使うこともできる。実際、現実としてこれに類似した事件は起こっている。最近のコンピュータにしても、短い年月でコンパクト化していったように、発信機や盗聴機も超小型軽量化となり、映画では腕時計や万年筆にも、これらを取付けていた。それを探り当てる為の探知機も、どこまで役に立つのか分からない。

 私達は、ごく自然に生活している中でも、銀行、コンビニエンスストアなどの防犯カメラに写っているわけだし、誰とも接触していないつもりでも、知らず知らずの内に、自分の足跡を残している。これを、個人規模で悪用するのは難しいにせよ、組織的に利用されれば、隠れるところも逃れる術もない。

 まだ日本は、こういった情報機関は無いだけ、ましである。しかし、アメリカには、CIAやNSAといった情報組織が存在する。だからこそ、映画もリアリティーになるのだろう。NSAは、国防総省内にある組織の一つで、政府の情報漏れや盗聴を防ぎ、逆にテロ組織や外国の情報を収集するといった活動をおこなう。従って、電話・FAX・コンピュータ・レーダの通信傍受は、彼らにとって容易いことなのだ。パンフレットによると、NSAで解読できない信号は、使ってはならないと決められているらしい。仮に、大容量のデータを転送できる通信技術を開発したとしても、それは必ず政府に、その技術を公開しないといけないということなのだろう。

 しかし、この機関に関する情報は、ほとんど無いとされている。CIAよりも予算や職員は多いらしく、運営費用も1時間で100万ドル近いとされているが、それも明らかにはされていないらしい。また、NSA職員は連邦法によって、内部の事情を語ることを強く禁じられている。まさしく、NSA(Never Say Anything … 何も言うな)である。「エネミー・オブ・アメリカ」の製作スタッフも、この映画をより現実に近づけるにあたって、かなり苦労したと思われる。かつて、「アルマゲドン」では、NASAが全面的に協力してくれた経緯があったが、この作品の中心となるNSAでは、立ち入り拒否をくらった。施設見学の際も、職員に話しかけることは許されず、護衛がつきっきりだったらしい。案内された個室も空室で、職員の姿も見えなかったらしい。NSAは、「National Security Agency」の略であるが、もう一つのニックネームがあるらしい。それは、「No Such Agency … あり得ない機関」というものだ。

 通信衛星も、映画のレベルまでに達しているかどうかも分からないが、少なくとも1メートル以下のものでも、識別できる性能を持つといわれているので、車の車種なんかは簡単に区別できるらしい。疑問なのは、曇りや雨の天気でも、通信衛星は、鮮明にそれらを見分けられるのかどうかである。映画では、通信衛星を使っているときは、いつも快晴だったので、少々、不満が残った。

 主演は、「インディペンデンス・デイ」にて、一躍有名になったウィル・スミス。この他にも、彼の代表作「MIB」では、トミー・リー・ジョーンズと名コンビぶりを発揮した。2作品とも、異性人を相手に戦ってきた彼は、今回、現実感のある恐ろしい敵を相手にすることとなった。彼はミュージシャンとしても成功を収めており、今やスーパースターである。

 そして、オスカー俳優であるジーン・ハックマンは、元NSAエージェントの役を演じる。以前、彼の作品を目にしたのは、「クリムゾン・タイド」。1995年に見た映画の中では最高傑作であった。

 レイノルズ役には、「ヒート」「ミッション・インポッシブル」に出演したジョン・ボイト。「仮面の男」のダルタニアン役で話題を呼んだガブリエル・バーン。「ツイスター」「コンタクト」「スターシップ・トゥルーパーズ」の話題作に出演したジェイク・ビジーと、「プライベート・ライアン」で天才的な狙撃手を演じたバリー・ペッパーの2人は、レイノルズのエージェントを演じている。この他、「レリック」で主演を演じ、「プライベート・ライアン」でも活躍した、トム・サイズモアも出演しているはずだが、何故かパンフレットのキャストには、その名がなかった。

 監督は、「トップ・ガン」「クリムゾン・タイド」をヒットさせた、トニー・スコット。 今回の作品は、ロバート・デ・ニーロの演じる野球選手のストーカーで話題となった、「ザ・ファン」以来となる。次回作は、ロッククライミングを舞台に繰り広げられるアクション・アドベンチャー「OH BABY SKY」の予定。なんでも、監督は、ウィルの演技に絶賛し、新しい飼い犬の名前を「ウィル」と名付けたとか。

 最後に、この映画は、その道のエキスパートのアドバイスにより、恐らく実現されているであろう技術を、映画化したものである。しかし、NSAの最先端の技術は、15年〜20年も先にいっているといわれる。逆にいうと、市場に出回っている技術は、NSAでは20年も前から使われていたということになる。つまり、「エネミー・オブ・アメリカ」は、私達の目から見ると最先端のテクノロジーとして映るかもしれないが、もしかすると、NSAから見れば、時代遅れなのかもしれない。…としたら、今のNSAは、どこまで進んでいるのであろうか…?

監督
 トニー・スコット

キャスト
 ウィル・スミス      ロバート・クレイトン・ディーン役
 ジーン・ハックマン    ブリル役
 ジョン・ボイド      レイノルズ役
 リサ・ボネッド      レイチェル・バンクス役
 レジーナ・キング     カーラ・ディーン役
 スチュワート・ウィルソン アルバート議員役

参考
 ・株式会社インプレス MOVIE Watch
 ・「エネミー・オブ・アメリカ」公式サイト
 ・「エネミー・オブ・アメリカ」パンフレット