F1 Grand Prix 第1戦 オーストラリア

 とうとう、2000年、ミレニアムF1グランプリを迎えることになりました。短いオフシーズンの間にも、各チームは、より速く、より信頼性の高い車に仕上げる為、数え切れない程のテスト走行を繰り返し、開幕戦を待ち望んできました。ミレニアムのワールドチャンピョンタイトルを狙う為、世界11ヶ国、22名のドライバーが集結しました。

 開幕戦は、5年連続、オーストラリアのメルボルンにある、アルバートパーク・サーキットでおこなわれました。今年は、14年振りに、日本人ドライバーは不在となり、少し残念な幕開けとはなったものの、何より、8年振りとなるホンダエンジンの復帰に、喜びと大きな期待を寄せています。予選では、ホンダエンジンを搭載した車に乗り込むヴィルヌーヴが、初戦にしては、8位という、まずまずの結果を出し、ホンダエンジンの性能が、相変わらず衰えていないことを、世界中にアピール出来ました。

 開幕戦として、すっかり定着した、このアルバートパーク・サーキットは、1周5.316q、これを58周することになります。総走行距離は、308.328qになります。そして、このサーキットには、2つのジンクスがあります。一つは、1996年から開幕戦となって以来、完走台数は11台、翌年の1997年には10台、1998年には9台、そして、昨年の1999年は8台と激減し、サバイバルレースとなっていること。そして、もう一つは、このサーキットでポールポジションを取ったドライバーは、何故か優勝出来ないということなのです。

 その気になる予選では、ミカ・ハッキネンが、3年連続の開幕戦ポールポジションを獲得し、マクラーレン帝国の強さを見せつけました。一方、昨シーズンは、怪我により、ワールドチャンピョンシップ争いを棒に振った、ハッキネンの最大のライバル、ミハエル・シューマッハーは、ハッキネンの相方、デビット・クルサードに続く3番手に甘んじることになりました。

 スタートは、マクラーレンの猛ダッシュによって、マクラーレン勢は、シューマッハーにつけいる隙を与えませんでした。今年のマクラーレンのシャーシは、昨年と見た目は変わらず、性能をより進化させたものを投入し、一方のフェラーリは、マシンをフルモデルチェンジした変化型で、今年のワールドチャンピョンのタイトル獲得に挑みます。

 レース開始から数周後、昨年はフェラーリドライバーとして、総合2位という輝かしい成績を残し、今年はジャガーに移籍したアーバインのクラッシュにより、セーフティーカーが出動します。このときには、既に、相方のハーバートもリタイアしているため、ジャガーの初戦は、2台揃ってのリタイアという、惨憺(さんたん)たる結果に終わりました。

 レースが再開すると、それまで2位をキープしていたクルサードは、左リアタイヤのパンクにより、慌ててピットインし、40秒以上のタイムロスを喫します。ところが、サーキットに戻った後、すぐにエンジンから白煙をあげ、リタイアしてしまいました。このとき、マクラーレン勢に不吉な暗雲が漂いはじめました。そう思うまもなく、その不吉の影は、ハッキネンにも襲いかかってきます。彼も、クルサードと同様に、エンジンから白煙をあげて、リタイアしてしまったのです。マクラーレン帝国の初戦は出端をくじかれ、トップは、シューマッハーに譲られることになりました。どうやら、エンジンの信頼性では、マクラーレンよりもフェラーリの方が、一枚上だったようです。また、途中、セイフティーカーも出動している為、セイフティーカーに先導されている間は、マシンスピードは、ぐっと落ちます。このことがエンジンに悪影響を及ぼした可能性も考えられます。

 シューマッハーは、前方の敵を追いやると、最初で最後のタイヤ交換とガソリン給油をおこないます。今年は、ピットレーンでの制限スピードが、120qから80qと抑えられてしまったので、その分、ピットでのロスタイムが増えることになります。通常、平均24〜25秒のロスタイムは、30秒前後となり、2回ピットストップするよりも、1回で済ませた方が、得になるわけです。

 一方、BARホンダの2台は、スピードでは、上位チームに遅れはとるものの、信頼性では、上位クラスに匹敵する走りを見せ、その後、BARホンダの前を走る、ジョーダン勢2台の相次ぐ戦線離脱により、開幕戦入賞どころか、表彰台の可能性も出てきました。しかし、BARホンダの開幕戦表彰台はならず、優勝はミハエル・シューマッハー、2位にバリチェロ、3位にラルフ・シューマッハー、BARホンダのヴィルヌーヴは、惜しくも4位と表彰台を逃したものの、堂々たる入賞を果たしました。ヴィルヌーヴの相方のゾンタは、7位でフィニッシュしましたが、その後、6位入賞のミカ・サロのマシンが、車輛規定違反の為に失格となり、ゾンタは繰り上げ入賞となりました。ホンダにとっては、他チームの失墜により得た結果とはいえ、最後まで完走できたことは、高い評価に繋がることでしょう。

 最終的に、出走した22台中、完走は半分以下の10台となり、相変わらずのサバイバルレースとなりました。また、ポールポジションを取ったミカ・ハッキネンが、優勝できなかったというジンクスも、破られることはありませんでした。しかし、まだ、今シーズンは始まったばかりです。今年は、全17戦を、2週間おきに開催するというハードなスケジュールの為、マシントラブルの原因解明や、その修理や対応に、長い時間をかけることが出来ません。実際、2週間といっても、木曜日までには現地入りし、金曜日からはフリー走行を始めなくてはならないので、10日間程度の猶予しか無いとみてもよいでしょう。最悪の場合、前回のトラブルを引きずったまま、次のレースに挑まなければならないのです。マシンのスピードよりも信頼性をより求められる一年になるのではないでしょうか? さて、第2ラウンド、ブラジル・グランプリの決勝戦は、3月26日です。フェラーリのセカンドドライバー、ルーベンス・バリチェロの母国でもあります。地元での活躍に期待したいところです。